ジョブ型雇用に通じる職務等級制度

2024.05.05

POINT

・労働生産性の向上という点から職能資格制度の限界を克服するために、賃金インセンティブ効果の高い成果・役割に応じた処遇を行う新たな動きが広まった。

・特に管理職者は企業経営上の責任を担うという点から、職位上の責任達成を問う成果主義的処遇の対象になっている。彼らに対する年俸制の導入はその典型的な姿である。

・成果・役割に対する処遇とは、いわば職務価値に対する賃金支払いであり、賃金の職務給化を意味する。この制度を体系化したのが職務等級制度であるが、日本の実情からその適用には多々問題がある。

・賃金の職務給化は、最近導入が見られるジョブ型雇用制度に活用できるが、職種によっては導入が難しく課題がある。

成果主義人事への志向

バブル経済の崩壊以降、日本の企業は抜本的な経営合理化とコスト削減を志向するようになり、その過程で新たな能力主義人事を導入する動きが出てきました。それは、従業員の職務遂行能力のレベルに応じて処遇する職能資格制度を輪とした能力主義人事とは異なり、従業員が担う職務価値の高さとその仕事上の成果に応じて処遇するといった「成果主義」の能力主義人事です。

この新たな能力主義人事の根底には、「会社が従業員に求めるのは成果であり、会社にどの程度貢献したかであり、職務遂行能力は成果や真献を出すための手段にすぎない」という前提があります。したがって、職務遂行能力が高くとも閑職についていたり、レベルの高くない仕事に従事していたりすれば、賃金も低くなってしまうというものです。

こうした新たな成果主義人事への志向が生まれた1つの理由は、国際競争が激化する中、価格競争力を強化するためにコスト削減を図っていく場面で、ホワイトカラーの労働生産性が先進諸外国に比較して低いといったことにあります。そして、この労働生産性を向上させる1つの方策として、貸金インセンティブ効果の高い成果主義的処遇に関心が寄せられ、特に管理職を対象にしてその適用が拡がりを見せています。それは、「職能資格上、上位の等級ほど企業経営上の役割や責任は重く、その役割や責任に対する成果を一段と厳しく求める」といった信念を、賃金処遇面で合理化しようとする試みと解釈することができます。

賃金処遇の基本的なイメージ

①一般職能レベル

実務能力の蓄積が中心になり、また勤続年数の伸びに応じて職務遂行能力の向上が期待できるので、勤続年数に応じた勤続・本人給重視の構成とする。

②中間指導職能レベル

職場の中堅層として上司の補佐的役割やその指示に基づく問題解決案の策定といった、より高度の職務遂行能力が問われるようになるので、職能給を重視する構成とする。

③管理職能

企業経営の幹部として、その役割や成果を厳しく間うことが必要になるので、その職位のもつ役割や成果に応じた賃金を処遇の中心に置く。

職務等級制度

職設資格制度(=職能等級制度)における管理職能層では、その職位の役割や責任を厳しく問う姿勢から、貸金体系上、役割給ないし成果給の構成が大きなウェートを占める成果主義的質金処遇がかなり普及してきました。このことは、「この職位に就く管理者ならば、こういった仕事をこの程度できるのが当然である」といった職位上の役割責任とその成果に対する賃金処遇を示しています。現在、管理職を中心に導入されている年俸賃金は、まさにこの考え方を体現したものです。

こうした役割給や年俸賃金は、その職位上のいわば職務価値に対する賃金支払いであるため、これは「職務給」を意味しています。こうした賃金処遇を管理職能層だけでなくすべての従業員に適用していくためには、米国で普及している「職務等級制度」(job grade system)を考えていかなければなりません。いわゆるジョブ型雇用制度の等級制度です。

職務等級制度(ジョブ型雇用制度)における賃金処遇上のポイント

① 職務給の定義

同一職務同一貸金の考え方に立つもので、職務価値の対価として賃金を支払う賃金制度である。したがって、ある特定の同じ職務に複数の従業員が従事していて、従業員間に職務遂行能力上の格差がある場合でも、すべて同額の賃金が支払われる。

②職務給の適用

職務給賃率の底上げとなるベースアップはあるかもしれないが、基本的に定期昇給はない。特定の1つの職務に従事している限り、賃金額は変わらない。より困難で責任の重い職務価値の高い職務に移れば、賃金はアップする。逆にやさしい職務に移れば、賃金はダウンする。

このように、職務等級制度とは、属人的な要素とは関係のない職務の価値を処遇の基礎に置く制度であり、属人的な職務遂行能力の高さを処遇の基礎に置く職能資格制度(職能等級制度)とは根本的な違いを見せます。担当する職務を特定して雇用する「ジョブ型雇用制度」はこの職務等級制度と通じるものがあります。

米国における職務等級制度

1人1職務担当が定着し、隣接職務との境界が明確になっていることを前提として成り立つものです。個々の職務を対象とした「職務分析」(job analysis)に始まり、職務ごとに何をなすべきかを明文化した「職務記述書」(job description)とその職務を遂行する上で必要な能力要件を明文化した「職務明細書」(job specification)の作成、職務ごとの「職務評価」(job evaluation)を通じた職務の相対的価値づけによる等級序列化、そして職務等級に応じた「職務給」(job rate)の決定といった手続きによって作り上げられています。

職務等級制度では、人事労務管理を運用していく上で、最も重要なものが職務記述書です。すなわち、この内容に基づい人事労務管理が運用されていきます。この考え方は近年日本においても導入が進んでいる「ジョブ型雇用制度」と同じです。

職務等級制度(ジョブ型雇用制度)における人事労務管理

① 従業員の募集・採用

特定の職務に対する募集が行われる。したがって、募集要件として、職務記述書の一部を構成する職務明細書から能力要件が明記され、同時にその職務に対応する職務給が明示されている。こうした条件に基づき、就職希望者と会社との間で雇用契約を結ぶ。

② 従業員の日常の業務

何をなすべきかといった内容が職務記述書の中に明記されている。自分の責任が明確であり、記述書に記載されていない仕事を命じられることはない。もし新たな義務が付加された場合、それは職務内容の変更となり、新たに職務評価を行い、新たな職務給が決定されなければならない。

③ 従業員の昇格・昇進

職務等級制度とは、職務価値に応じた職務の階層的な序列化を行ったものである。したがって、日本の企業に見られる身分資格的な昇格概念はない。現在よりも格(=等級)の高い職務に就けば昇格であり、また、現在の職務より職務価値の高い管理職という職務に就けば昇進を意味している。

日本の企業の傾向

こうした内容をもつ職務等級制度は、会社に対する貢献度を職務価値で判断し処遇するといった点で、近年普及しているジョブ型雇用制度が同じ考え方に成り立っています

しかし一方、これまでの日本企業の仕事の進め方を前提とすると、その運用には大きな困難が伴います。というのは、日本企業の仕事の進め方は、職務分掌規定など一応の整備はされているのですが、実際にはあまり使用されることはなく、課を職場単位として課員全員で課の責任を達成するといった「チームワーク重視の働き方」が基本になっているからです。このため、従業員個人に割り当てられる仕事は固定化されず、課の事情に応じて臨機応変に変化するのが普通です。また、新人に対する職務割当でもわかるように、その本人の職務遂行能力の成長に応じて仕事の内容が質的にも量的にも変化してきます。したがって、職務を固定して職務の体系を作り上げ、そこに従業員を配置する(=職務割当を行う)ことが前提となる職務等級制度とは、根本的に相入れない部分があるのです。

一方で担う職務が固定されるような職種においては、ジョブ型雇用制度が合理的であり、企業のコスト削減や生産性向上に貢献する可能性もあります。例えば、生産ラインでずっと同じ業務を繰り返すだけの業務、スーパーで品出しだけを担当する業務など同じ業務をひたすら繰り返し、特に能力向上を求められないような場合に適しています。また、特定の業務だけをずっとやり続けたいという労働者にとってもジョブ型雇用制度は魅力的です。自分の担当職務が変更しないので人事異動の心配もなく、自分が好きな仕事だけを続けられるからです。例えば、プログラミングだけをずっとやり続けたい人はプログラマーに限定した職務だけを担うと言った形です。

このようにジョブ型雇用制度は万能ではありませんが、職種や職務あるいは従業員の志向によっては活用できる場面があります。これからの人事管理においては、会社の業種・業務・業態・方針に合わせてジョブ型雇用制度と他の制度をうまく併存させて使い分けていくことが企業の成長と生産性向上につながるでしょう。

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人事コンサルティングチーム