POINT

・能力主義人事の実践としての昇格は、一定の基準に合った者はすべて昇格させるといった絶対評価に基づくものでなければならない。相対評価による昇格は、従業員の不信感を増長させるだけである。

・昇格基準としては審査基準・在位年数など多くの事項に留意していく必要があるが、職能資格制度下においては、職能層ごとにその基準の内容を吟味していくことが大切である。

・現在では、能力主義人事を徹底するために、昇格手続きの中に残存している年功的な処遇基準を撤廃する動きが目立つようになってきた。これはグローバル化時代への対応と解釈できる動きである。

昇格管理とは

職能資格制度における能力主義人事としての昇格管理とは、現在格付けされている職能資格等級上の必要能力を十分身につけているか、上位の職能資格等級に必要とされている職務遂行能力があるかなどを総合的にチェックし、その基準にあった者だけを昇格させる手続きです。

したがって、本年は何名昇格させるかなどの予定を決め、その範囲内で昇格者の決定を行うといった相対的な配慮に基づく運用は、昇格できなかった者の不信感を増長させるだけで、決して望ましいものではありません。昇格基準をクリアした者は全員昇格させるといった絶対基準での対応が昇格手続きの公正さを高め、その信頼性を高めます。

昇格管理は、職能資格制度の運用上の最も基礎的な位置づけにあり、この手続きが終了した上で昇進者の決定を行う昇進管理や昇給の決定を行う賃金管理などが動き出すのです。職能資格制度を能力主義人事制度として成功裏に機能させる鍵は昇格管理にあることを十分に留意する必要があります。

昇格基準

昇格管理を運用していくための前提は、昇格に必要な能力や経験、実績などの昇格基準の設定にあります。その際、一般的には次のような審査基準が指摘されています。

審査基準

①在位年数

その職能資格等級における経験年数のことで、その等級が必要とする職務遂行能力を習得するために通常何年ほどかかるといった考慮に基づく。そのポイントは最低必要年数のルール化にある。

②人事評価(能力・業績評価)

昇格決定の最も重要な手続きである。その職能資格等級が要求している職務遂行能力を習得しているか、またそれにふさわしい実績を上げているかといった点を評価する。ポイントは単年度ではなく、過年度の評価結果も含めた総合的な対応を必要とする。

③ 上司の推薦

人事評価によってそれなりの評価は行えるが、そこから漏れた内容や日常的な行動などを総合的に評価する。そして、上位等級の仕事をこなせるかどうかの可能性について意見具申を行う。

④筆記試験

その職能資格等級に要求される職務遂行能力があるかどうかを知識レベルを中心に問うものである。出題範囲は職能要件書に明記された内容が主なものになる。また、一般教養や社内規定を問うものや、経営課題に関するテーマ
論文を課す場合もある。

⑤ 研修受講

職場の場面を想定して実際の問題解決能力を見る一種のアセスメント(事前評価)方式による場面評価。ビジネスゲーム*やイン・バスケット*などの教育技法が利用される。

(ビジネスゲーム)
一定の企業や外部環境を想定して企業経営上の意思決定を行わせる教育訓練の技法。ゲームを通じて参加者の情報分析力や間題発見 ・解決力、意思決定力などが把握できる。

(イン・バスケット)
管理者ないし管理職候補者を対象にした能力評価ないし教育訓練の技法。未決箱 (bas-ket)の中に未決の書類を入れた職場場面を想定し、一定の時間内でその処理をしていく過程を外部の観察者が評価していくものである。

⑥履修認定

その職能資格等級に必要とされる職務遂行能力を習得するための必読書、通信教育、資格、免許、セミナー受講などの受講履歴を確認する。

⑦面接試験

事前に出した論文・レポート・事業計画書などを材料にしながら、日常業務における現状認識や問題意識、さらには問題解決の考え方などを把握し、その人物の資質を総合的に判定する。

これらの昇格審査手続きは、すべてを一律的に採用する必要はありません。職能資格制度上で要求される職務遂行能力を把握する場合に適切とされるものを弾力的に組み合わせていくことが大切です。しかし運用上、すべてに共通する配慮は、できる限り客観的な評価基準を設定していくことにあります。特に人事評価は、評価者の主観をできる限り排除することが最も大きなポイントになるでしょう。

入学方式と卒業方式

いつの時点で昇格させるかといった意味での基準設定では、大きく2つの方式、すなわち「入学方式」と「卒業方式」があります。卒業方式とは、「現在在位している職能資格等級に要求されている職能要件、すなわち知識・技術・経験などを満たした場合」に1つ上位の職能資格等級に昇格させるとするものです。

これに対して入学方式とは、「1つ上位の職能資格等級の要件を満たした場合」に昇格させるとするものです。職能資格制度上での昇格では、卒業方式が適用されるケースが一般的です。しかし実務的には、職能資格制度上で大きく3つに分けられている一般職能・中間指導職能・管理職能に応じて、その基準を弾力的に運用することが望ましいとされています。

一般職能層

仕事内容は定型的なものが主体であり、職務経験の積み上げが職務遂行能力の向上に相関するため、卒業方式が適切である。

中間指導職能層

管理職能と一般職能との中間に位置し、年齢的にも気力・体力が充実した段階である。能力的な伸長度は高く、同時に新たな物ごとにも積極的にチャレンジしていく必要もある。着実な能力習得面となる卒業方式と前向きなチャレンジ面を評価する入学方式を合わせた折衷方式が望ましい。

管理職能層

この職能層は昇進と一体化される場合が多く、職位の役割への期待が高まる
ため、職務遂行上の実績を含めて評価する入学方式が望ましい。

自動昇格と査定昇格

昇格決定の基準として、一定の年数在位すれば、自動的に上位の等級に昇格する仕組みを「自動昇格」といい、また、人事評価や昇格試験などの結果を見て適格者を昇格させる仕組みを「査定昇格」といいます。この2つの方式も、やはり職能資格制度上の職掌に応じて対応する必要があります。

入社して間もない一般職能は、経験年数と職務遂行能力の伸長が一致すると考えてよいので自動昇格が、そして、中間指導職能、管理職能と上位等級になるほど査定要素を強めていくことが望ましいものです。さらにまた、昇格在位年数の決定にも、次のようないくつかの配慮を必要とします。

標準年数

1つ上位の職能資格等級に昇格するためには現在の職能資格等級に何年在位すればよいかとする標準的な年数のことで、各等級ごとに設定する。しかしこの年数を重視した昇格管理を行えば、年功的なものになってしまう。

最低必要年数

昇格の条件として、在位年数を何年以上という制限を設けた場合の年数のこと。無制限の昇格を抑える措置ではあるが、一方で有能な人材の早期の昇格を抑えてしまう。このため、特に優秀な人材のための「飛び級制度」を導入
する場合もある。

最長自動昇格年数

標準的な在位年数を超えて一定の年数がたった場合、自動的に昇格を認める年数のこと。能力主義人事の本筋からいえば矛盾したものであるが、中間指導職能層を対象にして、従業員モラールの維持という点からの救済措置としての意味をもつ。

近年の傾向

こうした昇格管理の運用面における最近の動きとして、能力主義的志向をいっそう強める傾向が見てとれます。その1つは、若年時代からの能力主義評価を強める動きで、具体的には自動昇格を適用する等級を減少させるものです。もう1つは、最低必要年数の短縮ないし撤廃や、最長自動昇格年数の撤廃の動きです。能力主義人事を進めるとはいえ、これまでの年功的な処遇要素を残存させることで急激な変化に対する従業員のモラール低下をできる限り回避してきた企業も、グローバル時代における競争激化の中で、従業員モラールの低下を犠牲にしても経済合理性を追求せざるを得ない状況に追い込まれたということかもしれません。




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