目次
ジョブ型人事制度とは
テレワーク下でのマネジメント・評価における誤解とともに、近年見られるもう一つの誤解が「ジョブ型人事制度」についての考え方です。
従来、日本で主流の雇用形態は「メンバーシップ型雇用」です。採用は新卒一括採用で、個々の従業員の仕事の内容や業務を細かく契約で定めず、ジョブローテーションで幅広い職種を体験させ、終身雇用を前提にゼネラリストの養成が行われています。
それに対して「ジョブ型制度」は、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」に基づき、あらかじめ仕事の内容や求められる成果、必要な能力・経験などを明確にして、それに照らして最適な人材を起用します。報酬は仕事の難易度や専門性に応じて決められます。
テレワークの普及による様々な弊害が生じ、これらの問題を解決するために、メンバーシップ型ではなく、ジョブディスクリプションで社員の職務を明示し、その達成度合いなどを見る「ジョブ型」への移行を進めようとしている企業が増えており、それを解説する言説も多く飛び交っています。
ジョブ型導入での典型的な誤解
しかし、これらで議論されている内容のほとんどは、雇用や評価、賃金の本質的な理解に乏しく、表面的な捉え方しかできていません。
たとえば、次のような考え方はすべて誤解です。
誤解である考え方とは
・ジョブ型制度=解雇自由の考え方であり、リストラが加速するのではないか」
・ジョブ型制度=成果主義である
・ジョブ型制度=プロセスは評価されなくなる
・ジョブ型制度=職務記述書で担当業務が詳細に規定されるので、それ以外の業務は依頼できなくなるの?
・テレワークでは仕事の取り組みが見えないので、ジョブ型制度にして担当業務を明確にすればテレワークを円滑に運用できる
ジョブ型制度で注目される言説
「テレワークで部下の働きぶりが見えない、何をやっているかわからない、管理できない」
↓
「ジョブ型制度を導入し、職務記述書でやるべきことを明確に規定すれば何をやっているかがわかる」
「テレワークで部下の働きぶりが見えない、何をやっているかわからない、管理できない」
↓
「見えないのであれば、ジョブ型制度を導入し、プロセスではなく成果で評価すればよい」
という2つの構造のようです。
しかし、これらはジョブ型制度の本質の理解が欠如しています。
なぜジョブ型へ移行するのか
メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ移行する目的は何なのでしょうか。
間違ったジョブ型雇用の認識
①成果と賃金を結びつけたい
②個々の役割や業務内容を明確に定めたい
③社員の自律心を促し自らキャリア開発をしてもらいたい
などですが、実はそれらの目的はジョブ型雇用を前提としなくても、メンバーシップ型雇用でも十分達成することができます。
(解説)①成果と賃金を結びつけたい
今の時代、完全な年功序列の企業などはほとんど存在せず、人事評価制度とそれに紐づく報酬制度で当然に成果を評価しているはずです。人事評価シートにおいても多くは成果や業績を評価する項目が存在しているでしょう。
雇用形態ではない
もし成果を評価していないならば、組織目標や個人目標の達成度合いを評価する仕組みに改めます。その評価をどのように処遇へ反映させるかのルール
を決めれば、成果と賃金を結びつけることができます。あるいは、年功型賃金を廃止したいならば、それを単純に廃止あるいは半減した上で成果と能力で評価すればよいのです。つまり、成果と賃金の結びつけは人事評価制度の話であり、ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用という雇用形態の話とはまったく関係ありません。
また、そもそもの誤解として、ジョブ型雇用ではその仕事に就く際にポスト値段が決まっているため、成果が上がっても下がってもその値段は変わりません。成果と賃金はむしろ結びつくことにはなりません。
(解説)②個々の役割や業務内容を明確に定めたい
社内で個々の役割や業務内容が定まっていないということが本当にあるのでしょうか?職務記述書で業務内容を定めないと、何をしていいかわからない社員で溢れて日々ぼーっと過ごしているということなのでしょうか?
ルーティンで遂行すべき業務は、職務分掌としてある程度言語化しているか言語化していないかにかかわらず、誰しもある程度決まっているでしょう。毎日勤務時間がスタートするときに、「今日何をするか決まっていない」という状況はほとんどないはずです。
また、組織目標があり、その上で業績目標や個人目標に展開されその達成に向けて取り組む。その上で今月はこれを達成する。今週は何に取り組む。今日は何をする……ということは目標管理を活用すればできることですし、そもそもこれらができていないということはマネジメントがまったくできていないことと同義です。
マネジメントができていないならば、マネジメント活動を適切に行うというそれだけのことです。
ジョブ型制度にすれば勝手に問題が解決し適切マネジメントが行われるようになるというのは幻想に過ぎません。
もう一つの誤解
職務記述書に遂行すべき業務が細かく羅列されているというのも誤解です。
実際の記述レベルは、たとえば人事部課長の担当業務内容の一部として、「採用:全社要員計画に基づいて、新卒採用・中途採用を行う」などのレベルです。要するに、採用に関連したあらゆる業務を担当するということです。これで「何の業務をやるべきか、何の業務はやらなくてよいか」という具体的な判別ができるでしょうか?課長と係長と一般社員がチームにいる場合に、誰が何を担当するかがこれで明確になっているでしょうか?
逆に、これ以上細かくタスクを列挙することも難しいものです。
細かくタスクを列挙することには無理がある
・求人の条件を決める
・採用媒体と費用・条件の交渉をする
・採用媒体に掲載する原稿を作成する
・1次面接を実施する
・1次面接の合否を決める
などのようなレベルのタスクは何百とあるはずです。これをすべて列挙した上で、一人ひとりに割り振った上で契約を結ぶということができるはずがありません。
また、環境変化が断続的に起こる中、新たなやるべき業務が次々と発生するので、やはり担当業務を限定列挙するのは柔軟性に欠けますし、現実的ではありません。よって、職務記述書を活用すれば個々の日々の具体的業務内容が明確になるというのは誤解です。
(解説)③社員の自律心を促し自らキャリア開発をしてもらいたい
なぜ、そのように思うのでしょうか?それならばキャリア教育を強化し、その上で目先の業務のみならず、10年後、5年後、3年後のありたい姿を描き、そこからの逆算でスキルアップ、キャリアアップ、人事異動、役職登用などを行えばよいのです。
会社も上司も本人もいずれの当事者もそのように考えればよいのであって、ジョブ型制度にすることが前提条件ではありません。ジョブ型制度を導入すると社員の自律心が必要になりますが、自律心を促す方法はジョブ型制度だけではありません。
会社側の立場
ただし、会社側の立場で裏の目的を考えると、「会社主導の社員のキャリア開発を放棄することができる」という考え方はあります。これまでは終身雇用の枠組みの中でジョブローテーションが行われ、結果的に社員のキャリア形成がなされていましたが、企業の寿命が30年と言われる時代において、「自社の中だけの経験で、社員の成長やキャリアアップを約束できるか?」と問われて、100%の自信を持って約束できる企業は少ないでしょう。
実際に、経済界の首脳から次のようなコメントも出ています。
経済界のコメント紹介
「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」(経団連の中西宏明会長)
「終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきた」(トヨタ自動車の豊田章男社長)
「45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ」(サントリーホールディングスの新浪剛史社長)
企業が終身雇用や社員一人ひとりの最適なキャリアアップを気軽に約束できない以上、これからの不確実で変動の激しい時代に対応して働き続けることができる能力・スキル・環境を習得するのは、個人の自己責任となっていくでしょう。
会社としても、社員に対してそれを説明・啓蒙する責任があります。
以上のとおり、ジョブ型制度でなければ実現できない目的はありません。いずれも現状のメンバーシップ型雇用のままで実現可能です。
ジョブ型導入の壁とは
メンバーシップ型雇用においては、社員はポストも職種も無限定契約ですから、企業が自由に人事権を発動して都合よく組織編成をすることができます。新卒採用をして自由に配属先を決めジョブローテーションをしながら育成をしています。その成長度合いを見ながら企業側にとって都合よく適材適所を実現できるのです。
一方、ジョブ型制度では、基本的には、ポストが空いたとき、あるいはポストが新設されたときに社内外から公募でそのポストの適任者を決めることになります。
別の表現をすると、企業側には誰をそのポストに異動・昇進させるかという人事権はないということです。
社員は、自らのキャリアを自ら築いていく環境に置かれます。自らスキルを磨き、ポストが公募された際に自ら手を挙げます。もちろん、現状維持を望むならばずっと今のポストのままです。
ハイブリッド型
これまでの考え方と大きく異なる慣行ですので、人事異動を含めた組織編成、報酬体系、採用と育成のあり方もすべてこの考え方に合致するように設計し直す必要があります。
この点が壁となり、これに完全に対応できる中小企業は多くないでしょう。
ですから、多くの企業では完全なジョブ型制度ではなく、下位等級は職能資格制度のままで新卒採用とジョブローテーションでの育成を続け、上位等級(概ね管理職以上)のみにジョブ型制度を適用するというハイブリッド型の制度導入に留まることがほとんどでしょう。
ジョブ型制度への移行で求めたい本来の意味合い
ただし、上位等級のみであっても職能資格制度からジョブ型制度への移行の意味合いとして、ポストに値段をつけることによる年功序列の排除という目的は特にありませんし、必要性もありません。その程度の目的であれば、役職手当・役付手当などをポストごとに上下させることでポストの価値の違いを明確にすれば、職能資格制度あるいは役割等級制度のままでも対応できるためです。
上位等級のジョブ型制度への移行で求めたい本来の意味合いは、外部のスペャリスト・プロフェッショナル人材の登用の加速です。
VUCA(ブーカ)の時代
数年前から、現代がVUCA(ブーカ)の時代に突入したと言われています。これはVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取って作られた言葉で、一言で言うと将来が予測不能な時代だということです。テクノロジーの進化やビジネス環境の変化が急激な中、そこで競争に勝ち残るためのビジネスモデル変革やイノベーションを行うための人材を確保するためには、社内でのゼネラリスト人材の登用だけでは限界があります。
すべてのポストでジョブ型制度が必要なのかどうかはともかくとして、会社でコアとなるポストやテクノロジー関連のポストではジョブ型制度との親和性が大きいでしょう。
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