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「評価結果は賃金に反映させなければならない」は間違い
評価を賃金に結び付けることで、予期せぬ失敗を招いてしまっている例が多くあります。評価を行なったら必ず評価結果を昇給、あるいは賞与に反映しなければならない、と「評価→賃金」をセットで考えている経営者の方も多いようです。
人事評価制度の誤認
「評価→賃金」をセットで考えている人は、ほとんど人事評価制度の本来の目的、ゴールを誤認しています。人事評価制度の本来の目的は「人材育成を通じた経営目標、ビジョンの実現」です。これを、「賃金(昇給や賞与)を決めること」と誤解してしまっているのです。
こういう考え方になってしまうのは、ある程度はやむをえないかもしれません。なぜなら、評価結果を賃金に反映することは当たり前に行なわれてきましたし、人事評価制度がある会社であれば、賃金制度のルールとして実践されていることだからです。
しかし、この当たり前に行なわれてきて、常識として考えられていることこそ、人事評価制度を失敗に導く落とし穴となってしまう場合があるのです。
もちろん、ほとんどの会社で評価結果を賃金に反映はしています。賃金に反映することが間違いなのではなく、そらを目的、ゴールとしてしまうことが間違いなのです。
賃金への反映は手段のひとつ
では、賃金への反映の位置づけとは何でしょうか?それは本来の目的である「経営目標の達成」のためのプロセスのひとつ、いわば手段にすぎないということです。
ということは「経営目標の達成」という目的の実現のために有効な手段であれば実施すべきであるし、逆に有効でなければ実施すべきでない、ということになります。
実際に、賃金に反映することが必ずしも有効ではないと判断し、賃金と切り離して評価制度を運用している会社もあります。
では一体、どういう場合が賃金と切り離したほうが効果を期待できるのでしょうか。
賃金と切り離した場合の効果
次の3つのパターンの場合、効果が期待出来ます。
ひとつ目は、インセンティブ、歩合給的な要素を取り入れ、すでに賃金に大きな格差ができている場合です。そこへ、さらに評価と新賃金で格差を広げようとすると、社員の反発を買うことが想定されるケースがあります。このような制度と風土を持っている会社は当初から賃金に反映しないほうがよい場合があります。
ふたつ目のパターンですが、業績などが原因で、評価を賃金に連動させると給与が下がる社員が多くなる、といった場合です。こうなると、社員側は、人事評価制度を給与を下げるための手段ととらえてしまい、モチベーションが下がってしまうのは明らかです。
もうひとつは、「評価は人材育成のための仕組みである」ということを徹底して浸透させていきたい場合です。このような風土をつくりたい会社は、あえて「賃金には当面、反映しない」ということを明言して、評価制度のみを導入するケースがあります。
そうすることによって、新たな人事評価制度改革の目玉は評価であり、それを人材育成に結び付けていくのが目的だということだけに社員の目を向けさせることができるのです。
人事評価制度の構築、改革に取り組む場合、まず、評価結果を給与、賞与に連動させなければならない、という先入観は捨てましょう。
「評価者研修で評価スキルを身につける」は間違い
中小企業ではこんなことがよく起こります。
ある部署の係長の仕事ぶりです。仕事の処理スピードは速くてしかも正確、ミスもない。担当する業務に関する専門知識は誰よりも高いが、自ら周りの人に教えようとはしない。提案や改善を積極的に行なうことはないが、上司が課題を与えると、いつも的を射た対策や改善案を持ってくる。
この係長に対する社長の評価はかなり低いものでした。評価制度を導入し、評価してみると「D」評価(評価判断を「SS.S.A.B.C.D.E」の7段階評価とした場合)。ところが、直属の上司、K課長に評価してもらうと、評価結果は「A」。社長の認識とは大きなギャップがあるということになります。
評価者間のギャップ
こんなとき、社長は「K課長はまったく評価の方法を理解していない。評価のスキルを身につけてもらうため、徹底した評価者研修を実施すべきだ」と考えます。
しかし、これは間違った問題の解決方法です。評価者研修をいくら実施しても、評価者間の判断のバラツキを解消することはできません。なぜならば、評価者研修で教わることと、実際の部下を評価することには大きな開きがあるからです。
評価者研修ではお決まりの「ハロー効果」や「極端化傾向」「理論誤差」など、評価時のエラーについて説明したり、モデルケースを使って評価の演習を行なったりします。しかし、このような評価に対する正しい考え方を学び、理論的なことを理解しただけでは、現場での部下の行動に結び付けて適正に評価に反映することは難しいのです。
実際、評価には半年、あるいは四半期の対象期間があるわけですが、その間に評価者研修で学んだことは忘れてしまいます。評価の時期になって、いざ評価を実施しようとすると、それまでにできあがっているその社員のイメージによる評価だったり、直近のできごとだけを大きく評価に反映してみたり、思いっきり評価のエラーを犯してしまうのです。このように、評価者がそれぞれの思いと視点で評価をしてしまうため、評価にバラツキが出てしまいます。
評価決定会議
この評価者間のギャップを埋めるためには、実際の評価結果に基づいて、その判断基準の”モノサシ”をそろえていくしかありません。このために行なうのが「評価決定会議」です。実際の評価結果をもとに「評価決定会議」で、評価者間のすり合わせを徹底して行ないます。
いくら評価者研修を繰り返しても、それだけでは机上の空論で終わり、評価者間の”モノサシ”がそろうことは永遠にありえないのです。
※ハロー効果⋯⋯対象社員がひとつの要素にとくに優れていたり、反対に劣っていたりするとそれが先入観となり、ほかの要素も全部優れている、あるいは劣っていると判断してしまう評価時のエラー
※極端化傾向⋯⋯⋯どんな項目でも極端に大きく差をつけようとしてしまう評価時のエラー
※理論誤差⋯⋯⋯ひとつの評価項目に対する評価をほかの項目へ、論理的”に結び付けて評価してしまう評価時のエラー
「“フィードバック面談”は評価結果を伝えること」は間違い
通常、評価制度を実施している企業では、評価結果を本人へ伝えるための面談を行ないます。これが「フィードバック面談」です。しかし、その目的を正しく理解している企業は意外と少ないようです。
ある会社でこんな事件が起こりました。
その会社では、人事評価制度を導入して約1年半。すでに、評価とフィードバック面談を半年ごとに実施していました。
すると、社員のなかから「フィードバック面談を受けていない」「フィードバック面談を電話で受けた」というような、とんでもない状況が発覚したのです。そのなかのひとりの女性社員は涙ぐんで、「自分がやっていることがほとんど認められていない。やりがいが感じられない」と漏らす始末。
そこで上司側からも事情を聞くと、彼らの言い分は、「フィードバック面談は評価結果を伝えることが目的なので、電話でも結果が伝われば問題ないでしょう」「私たちはちゃんと評価結果は本人に伝えましたよ、でも、もしかしたら雑談のなかで伝えたので、本人はフィードバック面談とはとらえていないかもしれません」
とんでもない話です。原因は明確です。評価者がフィードバック面談の位置づけ、目的を勘違いしているのです。
「フィードバック面談の目的=評価結果を伝えること」と、間違った認識をしてしまっていたのです。
名称に惑わされない
この事件以来、「フィードバック面談」という名称にも原因があったと考え「育成面談の目的=成長支援の場」と徹底して、面談を実施しました。
評価結果に基づいた面談を行なうときは、「育成面談」や「成長支援面談」等という名称にし、面談の目的を「評価結果に基づいて次の改善目標・課題を明確にし、成長を支援すること」と全社員に認識させてから実施すると間違いがないでしょう。
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ロイヤル総合研究所
人事コンサルティングチーム