POINT

・複線的人事制度は、終身雇用慣行や年功序列慣行の限界の克服と従業員の価値観の多様化を背景に生まれたもので、従業員本人の意思によるキャリア選択を可能にする人事制度のことである。

・男女雇用機会均等法がらみのコース別人事制度は、改正均等法によって今後どのように変化してゆくかは不明だが、勤務地限定コースはゆとり志向のさらなる成長の中で導入する企業が増加していくであろう。

・専門職制度は、専門能力の活用といった本来的な趣旨によるものが増加していくと推測されるが、管理職コースとの処遇上の公平さを確保することが課題である。

複線的人事制度とは何か

これまでの日本企業の人事政策には、「集団的な職務遂行を円滑に達成するためには職場集団の和を維持することが必要だ」とする集団維持優先の価値観がありました。しかし今日、経済のサービス化による就業構造の変化、大学進学率の増加、高度情報社会化の進展などを背景に、従業員の個性化や価値観の多様化が進み、集団的・画一的な人事制度は大きな曲り角にきています。また、これに終身雇用や年功序列といった伝統的な慣行の限界を克服する圧力も加わり、集団的・画一的な人事制度を修正する動きが加速しています。

この集団的・画一的人事制度の修正を象徴するキーワードが「複線的人事制度」です。これは、従業員のキャリア形成や人事的処遇を多様化する動きと見ることができます。

① キャリア選択制度

この制度は管理職のポスト不足問題を緩利するために生まれた「専門職制度」の導入を直接的な契機とするが、同時に、専門職として働きたいとする従業員の仕事志向の価値観の成長を背景にして、管理職適格時に「管理職掌」「専門職掌」「専任職掌」の3つのキャリア・コースから1つのコースを選択させるもの。管理職掌とはこれまでの部門管理者を、専門職掌とは特定の専門分野に特化した専門家を、専任職掌とは長年の経験によって蓄積した実務知識・技能を駆使する高級実務担当者を意味する。

② コース制度

この制度は男女雇用機会均等法(1986年施行)への対応として導入された女性社員を男性社員と同等に扱う「総合職」と男性社員の補助的業務を担う「一般職」に分けて処遇する「コース別人事制度」を基礎としたもの。しかしその後、女性総合職活用上の一番のネックが転勤問題にあったため、転勤のない総合職として「準総合職」を追加した。この制度は女性社員を対象としたものだが、一方で、ゆとり志向・個人生活重視といった価値観の成長や単身赴任への摩擦の増大に対応して、「勤務地限定コース」といった男性社員も含む全従業員を対象にしたコース制度として成長している。

③進路選択制度

この制度は、定年延長・高齢化・管理職ポスト不足など、中高年者対策の一環として導入されたことを直接的な契機とするが、これに従業員側の人生設計を再編したいとする自立志向を実現する制度という意義も付け加わった。40歳代半ばを一応のメドとして、いくつかのコースの中から自分のキャリアを選択させるもの。退職金の割り増しのある選択定年(=早期退職)、自営・独立に対する融資、転職のための能力開発に対する資金援助など、多様な内容を含む。

④ 役職任期制度

この制度は、定年延長に伴う管理職ポスト不足の緩和策、組織の活性化策の一環として、一定の年齢に達した管理職に対し、改めて審査によってその継続を認めたり、また、一律的に役職を解任したりするもの。キャリア・コースの1つではあるが、従業員本人の選択や主体性が認められないといった点で他のコースと性格が異なる。

このような複線的人事制度成長の背景は、基本的には企業側の従業員活用の合理化にありますが、同時に、働く従業員側の自立志向、つまり「自分の職業人生は自分で設計する」といった価値観の成長も見逃せません。次の項では、これらの制度の中からコース制度とキャリア選択制度(専門職制度)についてさらに説明を加えます。

職務コース

職務コースとは、担うべき職務内容の違いから、幅広い知識と経験に基づいて意思決定を含む基幹的な業務を担う「総合職(準総合職を含む)」と、管理者の指示の下で主として補助的・定型的な業務を担う「一般職」に分けて処遇を行う人事制度です。

このコースは、もともと1986年に施行された男女雇用機会均等法への対応として導入されたもので、少数の女性を受け入れながらも男性は総合職、女性は一般職として位置づけられてきました。しかしその後、さまざまな見直しが行われて1997年に改正された均等法では、「一般職採用 女性のみ」という採用方法が禁止されることになったため、男性も一般職に応募することが可能になりました。

この結果、将来的にもこのコース制を採用し続ける場合には、職能資格制度の等級数・転動の有無・昇進・賃金体系・教育内容など、多くの点で総合職と一般職の処遇内容を明確にした精緻な人事処遇制度の構築を必要とするようになります。

この制度を運用するに際しては、あくまで本人の意思によるコース選択であることがポイントです。また、何らかの事情の変化で職掌を変わりたいとする従業員の希望を実現させるために、職掌間の転換ができる手続き(=職掌転換制度)を制度化しておくことも必要になるでしょう。

勤務地限定コース

勤務地限定コースとは、従業員の個人的な事情で地元や一定地域を離れることができない従業員のニーズに応えるためのコースで、はじめから勤務する地域を限定し、通常、転居を伴わない事業所間の転勤のある人事制度のことです。

このコースで採用された従業員の仕事の内容は総合職と変わりません。しかしそうであるならば、多くの者が転勤の気苦労のないこのコースを選択することが目に見えています。そのため人事制度上の工夫として、昇進・昇給に一定の制限を設けることが一般的に行われています。

日本企業における全国転勤の手続きは、従業員の定期的人事異動の中心的な位置を占めており、人材の柔軟かつ効率的な活用の柱です。それゆえ、将来的に企業の経営幹部として昇格・昇進していく総合職にとっては、不可欠のキャリア過程とされているのです。転居を伴う転勤は住宅・子どもの教育・親の介護といった問題とぶつかった場合、何かと摩擦が大きいものです。地城限定勤務とは、こうした摩擦を回避する代償として昇進・昇給上のデメリットを負うといったトレード・オフで成り立つ人事制度ということができます。

専門職制度

企業の中高年齢化から生じる管理職ポスト不足への対策として専門職制度を活用する企業も相変わらず多いのですが、そうした意図からではなく、特定の分野において高度の専門的な知識・技術をもっていたり、特定の分野の業務にきわめて習熟している者を、そのキャリア・能力に着目して人事的な処遇を行っていく専門職制度に関心が集まっています。

こうした意味での専門職制度の設定・導入を促す理由としては、次のようなものが指摘されています。

専門職制度の設定・導入を促す理由

①生産、販売などの各分野における個々の従業員をスペシャリスト化し、その能力の有効発揮を図る。

②管理職と専門職の機能分化によって組織の効率化を図る。

③高度の企画力、研究開発力を有する専門家の確保を図る。

しかしここでいう専門職とは、医師や弁護士といった社会的に通用する専門職ではなく、あくまで特定の企業内において設定される職能区分です。したがって、何をもって専門職とするか、そしてどのような業務を担当させるかは各社の事情によって異なります。しかし一般的には、次のような仕事のタイプを専門職としているといわれています。

一般的な会社に於ける専門職とは

①企画専門職
特定分野における高度の知識または技術をもち、その分野の調査・研究を遂行する専門職。

②政策専門職
各部門の機能の調整を図りながら、特定のプロジェクトを推進していく専門
職。

③技術専門職
デザイナー、システム・エンジニア、不動産鑑定士などのように、特定の専門的知識・技術が要求される職種。

④習熟専門職(専任職)
実務のベテランといわれるエキスパート。特定分野に習熟した人の能力と経験を活用するために位置づけられた専門職であり、これを「専任職」と称する場合も多い。

これまでのところ、こうした専門職コースは管理職コースと対比され、正当なコースから外れた管理職になれない人材のコースと考えられる場合が多かったといえます。しかしここでいう専門職コースとは、従業員本人が積極的に希望し、そのもっている特別の知識や技術を職業生活のコアにしていきたいとする期待を満たすキャリア・コースとされるものです。

そのため、専門職コースの昇格や昇進といった処遇体系は、専門知識や技術を重視しながらも、管理職コースに比べて不利にならないように設計される必要があります。その基本的な考え方は、管理職コースの昇進段階と対応させることにあるといえるでしょう。




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