日本企業における人事労務管理の運用上の特徴は、人事制度を軸にして人事労務の基幹的な職能が機能していることです。人事制度上で展開されるキャリア形成ないし人事処遇の制度を理解する必要があります。

まずは、伝統的な年功主義人事制度に代わって現在主流になっている職能資格制度の内容を理解します。次に、職能資格制度を根底に置きながらも画一的・一律的なキャリア・ルートを修正し、複数のキャリア・コースの中から従業員に自発的な選択を行わせ、自立的なキャリア設計を考えさせる複線的人事制度の内容を考えていきます。そして最後に、職能資格制度のインセンティブ効果の限界を克服し、企業に対する貢献度を処遇基準とする新たな動きを職務等級制度を中心に見ていきたいと思います。

職能資格制度

POINT

・職能資格制度は、年齢・勤続年数といった年功的基準に代わり、従業員の職務遂行能力の内容と程度を処遇基準とした人事制度であり、日本的な能力主義人事展開の基盤となるものである。

・職能資格制度が必要とする要件は、職能等級基準書の整備、絶対考課による能力評価、評価結果に基づく上司・部下の個別面接、職能資格等級にリンクした職能給体系の4つである。

・職能資格制度による能力主義人事展開の正否は、職能資格等級上の昇格を決定する昇格手続さの厳正な実践にかかっている。これが崩れると、職能資格制度による能力主義人事の崩壊につながる。

職能資格制度とは何か

職能資格制度とは、従業員の職務遂行能力の内容と程度に応じて適切な職能
資格等級に格付けし、その職能資格等級によって従業員1人ひとりの人事的・貸金的処遇を行う人事制度のことです。そしてこの人事制度は、これまでの年功主義人事労務管理に代わって、日本的な能力主義人事労務管理の理念的なモデルとなる「トータル人事システム」の中核的な役割を担っています。

人事制度として円滑に運営されるための4つの要件

職能資格制度が、従業員の人事的・賃金的処遇を行う人事制度として円滑に運営されるための要件とはどのようなものがあるでしょうか。

① 職能等級基準書(職能要件書)の整備

②職能等級基準に基づく絶対考課による能力評価の実施

③評価結果に基づく上司と本人との個別面接の実施

④職能資格等級に基づく職能給体系の確保

また、職能資格制度を真に能力主義的に運用する際のかなめは、職能等級上の昇格手続きの厳正さにあります。というのは、昇格という事実が発生して初めて昇進・昇給が実現されるといったように、昇格があらゆる処遇の前提になっており、昇格手続きが年功的に運用されてしまうと、職能資格制度の根底が崩れてしまうからです。

職能資格制度の設計

職能資格制度のフレーム

はじめに、職能資格制度の基本的なフレームを示します。それぞれの項目について、設計上で配慮すべき内容について解説します。

設計上で配慮すべきこと

① 等級区分と等級数

まず、能力主義人事における評価や育成を考慮の基礎に置きながら、全体区分を「一般職能」「中間指導職能」「管理職能」と大きく 3つの職能段階に層別し、さらにそれぞれの職能内部を3つほどに等級区分する。全体としての筆級数は従業員数に応じるが、一般的に中堅・中小企業の場合は9等級くらいが適当とされる

② 各等級の定義

仕事を進める上での職務遂行能カレベルを抽象的に表現する。実際の運用では各レベルについて職務調査が行われ、具体的な基準が設定される。

③ 昇格の基準

昇格に関する基本的な考え方として、一般職能レベルでは勤続によって習熟が伸びるため経験年数を評価の中心に置き、中間指導職能レベルでは能力評価による個人差を明確にした評価を重視する。管理職能レベルでは企業経営の責任者的存在になるために実績を重視した評価を中心に据えるのが一般的である。また、各職能レベルを超える昇格の節目には、業務遂行上で欠くことのできない知識や関連知識を問う筆記試験や論文試験、面接試験などを行うことも必要である。

④昇格のための在位年数

上位等級への昇格に必要な在位年数は、運用的には「自動昇格年数」「最低必要年数」「最長自動昇格年数」「標準年数」を考える必要があるが、最低限表記すべき年数は、一般職能レベルの自動昇格年数と中間指導職能レベルの最低必要年数の2つである。最長自動昇格年数は一種の救済措置的なもので、中間指導職能レベルに適用されるもの。標準年数はあくまでモデルであり、これを重視すると運用が年功的になってしまう。

⑤ 対応する役職位

どの役職位がどの職能資格等級に対応するかを考える。課長になるためには7等級以上の資格者から選ばれることを示す。7等級になったから直ちに課長になれるのではなく、課長になれる資格を得たということである。実際に課長になる者は、7等級以上の者から選抜試験などを通じて決定される。

職務調査

職能等級基準書(職能要件書)の作成

能力主義人事の基軸として職能資格制度を使用する場合、各職能資格等級における資格基準となる能力基準が決定的な意味をもちます。そして、この能力基準を設定する際に必要になるのが「職務調査」です。

①課業の洗い出しと内容の記述

個々の課業を遂行するのに必要な能力を洗い出す場合、「他の課業の場合とどのように違うか」といった問題意識で臨み、それぞれの課業遂行に必要な能力と責任・判断力・精神的負荷といった点からその難易度を把握する。

②課業評価の実施

課業の洗い出しと課業内容の記述をもとに、それぞれの課業の序列付けを行う。職務遂行能力の習熟度と難易度といった点から課業1つひとつを評価し格付けする。そして、その結果を、職種ごとにそれぞれの課業の評価序列付けを行った「職種別課業評価一覧表」としてまとめる。

③職種別職能等級基準書の作成

全社共通的な職務遂行能力のレベルを知識・技能・経験・責任度・判断力などに基づき層別した「職能資格等級」を縦軸にとり、同時に社内のすべての業務を分類し単位組織化した「職種」を横軸にとり、このマトリクスの升目の中に、それぞれの課業の内容、職務遂行のレベル、必要な知識・技能・技術、さらにはその職務遂行能力を習得するための手段・方法を記述していく。こうした作業の結果作成された膨大な内容が職種別・等級別の職能基準書になる。

このようにして作成された職種別の職能等級基準書 (=職能要件書)から理解できることは、たとえば、経理職種2等級の従業員は「この種の仕事を、この程度のやり方でできなければならない」、そしてそのためには「このような職務遂行能力 (=知識・技能・技術)を身につける必要がある」といったことです。また、上級の経理職種3等級にも同様の内容の記述がありますから、昇格するために必要な自己啓発目標を設定することができます。

さらに、この広い意味での職務情報を上司による部下の能力育成の手段にまで活用する場合には、「この種の能力習得にはこの種の手段・方法がある」といった能力習得手段や方法の情報を追加しておくことも必要です。




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