目次
POINT
・人事労務管理におけるコンピュータ化は計算主体業務から始まったが、今日では、経営管理上の意思決定の基礎資料作成といった管理的業務にまで拡大されている。
・人事情報のデータベース化をした人事情報システムは、必要に応じて加工した資料を瞬時に出力することができるため、人事労務管理にかかわる業務の効率化と従業員の個別管理化を促す。
・人事情報システムの運用上、常に情報の最新性を維持すると同時に、従業員の機密保護という配慮をしなければならない。情報共有化の促進とそのアクセスへの制限といったバランスが課題になる。
〔1〕人事情報システムとは何か
コンピュータによる情報処理技術の急速な発達によって、人事労務管理の領域にもコンピュータ化の波が押し寄せています。当初、人事労務管理におけるコンピュータ化は、給与計算、社会保険料計算、労働時間の集計といった「計算主体業務」に現れ、その効率性と利便性が追求されてきました。
しかし1970年代後半以降になると、情報処理技術の飛躍的な発達に伴い、人事労務情報のデータベース化が促され、経営管理上の戦略的な意思決定の基礎情報となる各種の資料作成や加工も可能になり、その結果、要員計画・配置転換・労働条件・職務内容・教育訓練・組織開発など、いわゆる「管理的業務」にも応用の範囲が拡がっていきました。そして今日では、「人事情報システム」
(personnel information system :PI S)とは、人事労務管理にかかわる業務の情報システム化を意味するものとして、また、人事労務方針をベースに作成される人事制度運用のための基礎的な情報収集の役割を担うものとして認知されるようになったのです。
この人事情報システムを構築するに当たって、その最も基礎的なデータとなるのが従業員の個人別の人事情報(=個人別基本データベース)です。その際、企業の業種や規模に関係なく一般的に情報として入力されるべき内容としては、次のような項目が指摘されています。
①表示項目(社員番号、氏名など)
②本人属性(性別、生年月日、入社年月日、学歴、職歴など)
③ 住居(住所、電話番号、通勤時間、緊急連絡先など)
④家族(氏名、生年月日、学歴、扶養の有無、健否など)
⑤健康・衛生(身長、体重、視力、既往症、身体障害、健康状態など)
⑥経歴(所属、資格、職級、役職、職群職種など)
⑦給与(本給、基準内賃金など)
⑧人事評価結果(総合評価、評定区分など)
⑨自己申告(希望勤務地、希望職種、上司意見、異動希望時期など)
⑩教育訓練(コース名、修了年月、評価など)
⑪資格(公的資格、民間資格、取得年月日など)
⑫勤怠(遅刻早退回数、病欠、事故欠、有給休暇など)
⑬賞罰(表彰種別、罰則など)
こうした個人別の基本データベースを基にして、各種の人事労務管理制度を運用していく上で必要な人事情報のサブシステムを構築していくのです。その内容は企業の必要性に応じて異なりますが、その概要は次のとおりです。
①採用管理サブ情報システム
要員計画に始まり、従業員として受け入れるまでの採用予定者のデータを扱う。
②就業管理サブ情報システム
主として従業員の勤怠データを扱う。給与計算、賞与計算に利用する。
③給与サブ情報システム
給与計算、賞与計算、年末調整計算を主に行う。
④福利厚生サブ情報システム
給与データを基に、社会保険料の計算をしたり、さらに従業員の健康管理データを蓄積したりする。
⑤人事評価サブ情報システム
人事評価、配置・異動、自己申告などの評価データを扱い、その履歴を蓄積する。
⑥人材開発サブ情報システム
各従業員の教育訓練計画や、その教育訓練で得た知識および取得資格(スキル)、職務経歴(キャリア)に関するデータを扱う。
〔2〕人事情報システムの活用
人事情報システムは人事労務管理制度を効率的に運用するのに効果的です。ここではその事例として、これからの企業の経営戦略上その重要性がいっそう増すとされる人材開発戦略にかかわる「人材開発サブ情報システム」の活用のあり方を、教育計画策定・教育受講管理・取得資格管理・職務経歴管理の面から見ていきます。その概要は次のとおりです
(1)教育計画の策定
①教育研修マスターから数育受講歴や昨年の職務能力達成度と目標などを「個人別の職務能力一覧」に印刷し、各個人に配付する。
②各従業員は、それを参考にしながら現在の職務能力達成度や今年の職務能力目標、受講したい教育内容などを、上司と面接しながら記入し、教育計画を立てる。
③教育計画を回収し、従業員ごとに現在の職務能力達成度と今年の目標、その他の特記事項などを教育研修マスターに入力する。そして「部署別・年齢別の職務能力達成度一覧」や「各職務能力目標に対する達成度の一覧」などを出力し、今後の教育訓練の参考とする。
(2)教育受講管理
①教育研修マスターより、これまでの教育受講履歴や今年の職務能力実績と目標などを印刷した「個人別の教育受講申込書」を印刷、配付する。
②各従業員に教育の申し込みを行ってもらう。
③教育受講予算、教育受講可能人数や優先度を考慮し、受講者を決定する。
④受講予定者を入力し「教育受講状況一覧」や「教育受講票」を出力する。
⑤ 従業員が教育を受講後、受講実績、評価、合否などを入力し、教育研修
マスターを更新しておく。
(3)取得資格(スキル)管理
①従業員が公的資格を取得したり公的試験に合格した場合に、その資格免許マスターに蓄積する。
②随時、「資格取得状況一覧」「個人別取得資格一覧」「資格別取得者一覧」「グラフ」などを資格免許マスターから印刷し、今後の教育訓練の参考にする。
③ 人事異動の際の参考データとして検索にも活用する。
(4)職務経歴(キャリア)管理
①職務経歴マスターから過去数年間の「職務経歴一覧」を出力する。
②従業員にこれを配付し、この1年間における職務内容、業績などを自己評価の上、上司と面談する。
③面談の結果を職務経歴マスターに画面会話形式で入力し、蓄積する。
④人事異動時の異動対象者選出のための参考データとして、またキャリア開発における「キャリア・インベントリー」として整備する。
これらの事例から理解できることは、蓄積された個人的な人事情報データベースを基礎にしながら必要に応じてその意図したデータを瞬時に加工・出力することができるために、これまでマニュアル的に行われていた作業の効率化が進むとともに、従業員の個別管理が大幅に改善されていることです。つまり、コンピュータならではの技術的利便性を生かした機動的な人事労務管理の運用を可能にしているのです。
〔3〕人事情報システム運用上の留意点
従業員個人別の人事情報は、その特徴としてデータ量が膨大になること、そしてその情報内容は日夜変化するといってもいいほどその陳腐化が早いことが指摘できます。また、人事事項には個人のプライバシーにかかわる項目も数多く含まれています。このような人事情報のもつ特徴を踏まえると、人事情報システム運用上の留意点は次のようなものです。
① 技術的利便性の追求
人事情報システムの技術的な利便性は、多種多様な大量のデータ蓄積の上に「データ項目の追加が自由に行え」、かつ「作成したい帳票出力のフォーマットが自由に設計できる」といったことにある。こうした利便性の要求はかなり技術的な問題となり、人事情報システム設計・導入時における最も重要な留意点である。人事情報システムの導入時に担当コンピュータ管理部署の技術者らと十分な打ち合わせが必要になる。
② 情報の最新性の維持
人事情報システムを導入した上での日常的なメンテナンスの核心は、その情報の最新性と正確性をいかに維持していくかにある。その点、日本の企業では人事労務部門が人事情報を集中管理している場合が多いために、情報更新の作業や時期がルーチン化されていれば、かなりの確度でその維持はできる。しかし、従業員が個人的に行う自己啓発や資格取得などは自己申告による情報把握しか方法がないため、そうした意味での情報収集手続きを確立しておく必要がある。
③ プライバシーの保護
人事労務管理のライン化が進み、ライン管理者の人事労務管理責任が大きくなるに応じて、たとえば部下の教育計画の策定の際にコンピュータ端末から直接人事データにアクセスし、必要なデータを収集することも必要になる。
こうした場合、ライン管理者以外の者が不当にアクセスする危険性も大きくなる。人事情報には個人のプライバシーにかかわる事項もあり、従業員の個人的機密保護の観点から、いかにその制限を確保するかが重要な問題になってくる。その際一般的には、パスワードを設けてアクセスを制限する方法がとられているが、一方で機密保護を強化しすぎると、情報の共有化に伴う有効な活用が拒まれることになるため、両者のバランスを考慮しなければならない。
〔4〕人事情報システム運用のメリット
社員に関する情報は、社内でしっかり管理されていることかと思います。しかし例えば、職務経歴、スキルや資格の取得情報、居住地や家族構成についての情報がそれぞればらばらに管理されていて、確認に多くの手間がかかる状態になってしまっている企業も多くあります。
人事情報生ステムを導入し活用することで、1つのシステムですべての情報を管理できるようになるため、確認にかける時間を短縮することができます。
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ロイヤル総合研究所
人事コンサルティングチーム