目次
POINT
・人事労務管理の職能的な役割は、経営労働秩序の安定・維持、労働意欲の向上、労働力の最大限の発揮の3つにある。
・人事労務管理は、雇用・教育訓練・作業条件・賃金・福利厚生・労使関係という6つの基本職能で構成されているが、それは人事労務管理の対象となる従業員の労働力・人間人格・賃金労働者といった3つの側面に対応したものである。
・現代企業の人事労務管理は、トップ・マネジメント、ライン賞
理者、人事労務部門といった三者が一体になって運営していくが、その運営のかなめとなるのは人事労務部門である。
〔1〕人事労務管理の役割
現代の企業は、株主・消費者・従業員・取引業者・地域社会など、企業を取り巻く利害関係者との調整を図りながら、永続組織体として利潤追求という経済目的の達成に向けて活動しています。その際、企業はこうした経済活動を行うためにヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を必要としますが、人事労務管理はこの「ヒト」を取り扱う経営管理活動です。そして、この人事労務管理の職能的な役割を定義的に説明すれば、「企業の経済目的達成に向けて、雇用労働者を対象に、組織としての経営労働秩序を安定・維持し、彼らの労働意欲を向上させることを通じて、彼らのもつ労働力を最大限に発揮させることを目的とした計画的・組織的な活動」ということができます。
人事労務管理の役割は、このように「経営労働秩序の安定・維持」「労働意欲の向上」「労働力の最大限の発揮」の3つにありますが、ここで留意してもらいたいことは、この3つの役割の「手段一目的」といった内的な関係です。つまり人事労務管理は、企業の利潤追求のために、「経営労働秩序の安定・維持」と「労働意欲の向上」を通じて「労働力の最大限の発揮」を実現しようとしているのです。
人事労務管理の職能的な最終目的となる「労働力の最大限の発揮」とは、雇った労働者にできる限り大きな「労働の成果」を上げてもらうことと言い換えられます。そして、この労働者の労働の成果は、機械設備や装置などの技術的条件と労働時間などの作業条件を一定とすれば、労働者の「労働意思」と「労働能力」という2つの要素の大きさに左右されるということができ、それゆえに人事労務管理とは、この2つの要素をより大きなものにしようとする科学的な施策として現れます。
まず、労働者がその能力を発揮しようとする心理的な態勢を意味する労働意思の大きさは、一般的に次の3つの要因によって影響を受けます。
①使用者と労働組合との関係(=労使関係)の安定度
②職場における上司・同僚・部下との良き人間関係の程度
③仕事に対する取り組み姿勢(=労働意欲)の程度
今、これらの3つの要因を人事労務管理の手段目的となる「経営労働秩序の安定・維持」と「労働意欲の向上」の2つを結びつけて考えていきます。経営労働秩序の安定・維持は、労使の信頼関係を実現し(=①の部面)、職場での人間関係を良好な状態に維持すること(=②の部面)を通じて、企業や職場に対する高い「モラール」(morale)を労働者にもたせることで達成できるものであり、企業が円滑な生産活動を行う際の必須の前提条件になります。そしてその上で、金銭的・非金銭的なインセンティブ施策を通じて労働者に仕事に対する積極的な労働意欲をもたせる「動機づけ」(motivation)を行い(=③の部面)、課せられた仕事に対する最大限の能力的な発揮を期待するのです。
しかし一方、こうした労働者の心理的態勢が高いレベルで確保できたとしても、労働者の労働能力が、課せられた仕事に必要な職務遂行能力に見合わなかったり、不足していたりすると、より大きな労働成果を期待することは困難です。このため、労働者のもつ労働能力を見極め、職務が必要とする能力をもつ労働者を発見・配置する適性配置を進めたり、教育訓練を通じて職務遂行能力の育成を行っていくことが必要になるのです。
〔2〕人事労務管理の制度
現代の企業における人事労務管理は、雇用・教育訓練・作業条件・賃金・福利厚生・労使関係といったさまざまな専門的職能で構成される総合的な管理制度として成立しています。なぜそうした制度が生まれたのかを理解するためには、人事労務管理の対象となる雇用された労働者としての「従業員」の多面的な性質を知ることが大切です。すなわち、人事労務管理の対象としての従業員は、次のような3つの側面をもつ統合体と理解する必要があります。
① 生産要素の1つとしての労働力
企業は生産活動を行っていく上で、原材料・部材や機械設備とともに、労働力という生産要素を必要とする。その際、その労働力の質は何でもよいというのではなく、企業が必要とする職能要件(=職務知識や技能)を満たす労働力を確保し、その要件に見合う適切な仕事に配置することが重要になる。
また、仕事の変化などによっては、その職能要件を従業員に習得させることも必要になってくる。
②労働意思をもつ心理的存在としての人間人格
企業が従業員に期待するのは、従業員のもつ労働力を十全に発揮し、所期の労働成果を確実に達成してもらうことである。しかし、従業員は労働意思をもつ人間としての人間人格という側面をもつために、企業としては職場内の人間関係を円滑に保ってモラールを維持し、さらに仕事に対して積極的に取り組む心理的な態勢、つまり高度の労働意欲を確保することが必要になる。
③労働条件の取り引さを巡り、経営側と経済的に対立する賃金労働者
資本主義経済における雇用労働では、従業員は労働の対価として賃金を受け取る賃金労働者といえる。このため、経営側はコストとしての賃金をできる限り低くしようとする一方、従業員側は生活の糧としてできる限り高い貸金を得たいと考える。現代社会では、こうした利害の対立を調整するのが労働組合であり、企業としてはこの労働組合との摩擦をできる限り避け、良好な関係を維持していく必要がある。
こうした従業員の3つの側面から生じるさまざまな人事労務問題を解決し円滑な生産活動を進めるために、企業はその総合的な対応として人事労務管理を必要とするのです。その具体的な職能は次のような6つのもので、これを人事労務管理の「基本6職能」と呼んでいます。
①雇用管理
企業活動に必要な労働力を質・量的に調達し、その質に応じた適切な職務に配置・異動することを役割とする。
②教育訓練管理
企業活動に必要な労働力の質を内部育成することを役割とする。
③作業条件管理
調達した労働力の摩耗や疲弊を防止することを役割とする。
④賃金管理
金銭的インセンティブを通じて高い労働意欲の保持を役割とする。
⑤福利厚生管理
企業に対する好意や帰属意識を向上させることを役割とする。
⑥ 労使関係管理
労使間の利害調整を通じて労使関係を安定させることを役割とする。
このように、人事労務管理はこれらの6つの職能を基本としながらも、今日
では人間人格への対応を強化する「モラールや労働意欲の向上の施策」が産業心理学や行動科学の発達を背景に急速な進歩を示していることから、人事労務管理の制度内容はより精巧なものになっています。
〔3〕人事労務管理の運営組織
これまでは専門的スタッフ職能としての人事労務管理制度の内容を説明してきましたが、現代の企業における人事労務管理は、企業経営上の最高意思を決定する「トップ・マネジメント」、実際に職場で部下となる従業員の指揮・指導・監督を行う「ライン管理者」、そして専門的スタッフ部門としての「人事労務部門」の三者がそれぞれの役割を分担しながら一体となって運営されています。
トップ・マネジメントが行う人事労務管理は、その企業の人事労務管理の姿勢や性格を方向づける「人事労務の基本方針」と企業環境の変化に即応する経営戦略の一環になる「人事労務の戦略方針」の決定にあります。こうした人事労務管理責任の存在は、生産・販売などの諸活動がトップ・マネジメントの決定する経営方針に則して行われていることからも明らかです。特に今日の日本のように、激しい環境変化の中にある企業では、自社の人事労務管理をどのように方向づけるのか、また、企業生き残りをかけた経営戦略上、人事労務管理に何を求めていくのかが真剣に問われているのです。
日常的な人事労務の専管サービス業務を行っている「サービス・スタッフ」(service staff)としての人事労務部門も、人事労務の新たな基本方針や戦略方針が決定されると、その方針の実現を意図した人事労務管理制度や手続きの設計や修正を行っていきます。今日の日本では、右肩上がりの経済の終焉、人口高齢化、女性の職場進出、急速な円高の進行、情報技術革新の進展といった企業環境の変化の中に、終身雇用や年功序列の慣行を基礎とする「年功主義人事労務管理」から従業員の能力や業績を処遇基準とする「能力主義人事労務管理」への脱皮が進められています。それは、年功主義から能力主義へと人事労務の基本方針の変更をトップ・マネジメントが決定し、その意を呈した人事労務部門がその制度的修正を行っている現れなのです。
一方、さまざまな職場の第一線では、部門管理者としてのライン管理者が指揮・指導・監督を通じて部下の業績達成を管理しています。こうした職場の第一線における部下管理がライン管理者の人事労務管理責任です。具体的には、次のような4つの人事労務管理責任をもっています。
①部下の実務能力の育成を図るOJT(on-the-job training:職場内訓練)
の実施
②部下の処遇決定や能力開発のための人事評価の実施
③部下の仕事への積極的な取り組み姿勢となる労働意欲の向上
④職場の人間関係を良好な状態に保つ職場モラールの維持・向上
このような内容から、現代企業の人事労務管理は「トップ・マネジメントが人事労務方針を決定し、人事労務部門が制度・手続きを開発し、ライン管理者がそれを活用して部下管理を行う」といった運営上の図式を描くことができます。ただし、その実務的なかなめは人事労務管理の専門家としての人事労務部門にあります。というのは、トップ・マネジメントやライン管理者は人事労務の専門家ではないからです。人事労務部門は、彼らが自らの人事労務管理責任を円滑に送行していくために、人事労務の専門家としての立場から有効な助言や援助を行っていく必要があるのです。これが人事労務管理の全社的な成功を左右する人事労務部門の「助言スタッフ」(advisory stafl)としての役割です。
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ロイヤル総合研究所
人事コンサルティングチーム