目次
POINT
・人事制度は、終身雇用慣行を背景にして生み出された従業員の社内階層的秩序と処遇決定のために利用される日本企業に独特な制度である。
・人事制度は、大きく年齢、勤続年数を主たる基準とした年功的人事制度と従業員の職務遂行能力の内容と程度を基準とした職能資格人事制度に二分されるが、今日における能力主義人事の基礎として職能資格人事制度が一般化している。
・職能資格制度を基軸にした能力主義人事労務管理のモデルが「トータル人事システム」で、能力評価結果に基づき雇用、教育訓練、賃金といった人事労務管理の基幹的職能を運用していくものである。
〔1〕人事制度とは何か
人事制度とは、たとえば「係長 → 課長 → 次長 → 部長」といった社内役職上の階梯となる「職位制度」と、「主務 → 主事→ 主査 → 参事」といった社内身分的な地位の階梯となる「資格制度」という2つの柱で構成された、従業員の組織階層的秩序維持と人事、賃金処遇上の決定のために利用されるフレームともいうべきものです。そしてこれは、従業員の長期継続雇用を前提にして生み出された日本独特の人事労務管理制度といえるものです。
こうした人事制度の下で、従業員の人事的処遇として「昇進」と「昇格」があります。昇進とは職位制度上のより上位の役職に就くことであり、昇格とは資格制度上のより上位の資格に遇されることを意味しています。そして、この昇進や昇格の決定の際、どのような基準で行うかによって人事制度の性格が変わってくるのです。
戦後から高度経済成長に陰りが見え始める1970年代前半頃までは、一般的に年齢と勤続年数を最も重要な基準としながら、従業員各人にふさわしい職位と資格を与える「年功的人事制度」が主流でした。そして、この運用のあり方に間題が生じなかった1つの理由は、企業内のさまざまな仕事を経験させて従業員の職務遂行能力を高めていく従業員育成方針(=ゼネラリスト育成)の下では、年齢や勤続年数が仕事経験の長さとして職務遂行能力の高まりを示す尺度になるといった広い合意があったからです。
また、人事制度の実際の運営面では、「課長という職位に就く従業員は主査という資格を与える」といったように、職位制度が前面に出て、資格制度はその陰に隠れていました。それは、年々企業規模が拡大し、それに応じて管理職の職位数も増大した結果、年功的に管理職適格者になった者はほぼ自動的に管理職になることができたという現実があったのです。
しかし1970年代も後半に入ると、急速な技術革新の結果、職場経験の積み上げと職務遂行能力の向上が必ずしも一致しない状況が目立つようになり、年功的原理の説得力が急速に弱まってきます。また、日本社会における人口高齢化現象は直接的に企業の従業員年齢構成の高齢化となって現れ、これに日本経済の低成長化による企業成長の停滞が加わった結果、従業員年齢構成上の「ピラミッド構造」が歪み始め、ここに年功的に管理職適格者が管理職位に就くことができない「ポスト不足」が生まれ、昇進制度でもある職位制度を中心にした人事制度運用に黄信号がついたのです。
こうした中で、年功的人事制度に代わる新たな人事制度の構築が始まり、その修正の基本的方向が「能力主義人事制度」です。そしてその具体的な姿として現れるのが、職能資格制度を基軸に据えた「職能資格人事制度」です。この制度は、特に第1次石油ショック(1973年)後に急速に普及し始め、現在では能力主義人事制度の主流の地位を占めるようになりました。
職能資格制度とは、従業員の職務遂行能力の内容と程度に応じ、あらかじめ設定されている職能資格等級にすべての従業員を格付けし、その等級によって人事・貸金上の処遇を決定する人事制度のことです。その結果、同学歴・同期入社の者でも、各人の職務送行能力の発達度合いに違いがあれば、異なる職能資格等級に格付けされ、処遇上の格差が生まれることになるのです。
職能資格人事制度と年功的人事制度の運用上の違いは、前者の場合、資格制度としての職能資格制度が中心に据えられ、これまで運用の前面に出ていた昇進制度としての職位制度が従属的な位置に置かれたことにあります。つまり、職能資格人事制度の下における管理職位への昇進者は、職能資格等級上の一定の昇格を実現した者の中から選抜されることになり、有資格者すべてが自動的に管理職になれるということにはなりません。
実際、数多くの企業が職能資格制度を導入していますが、そのフレームの内容から運用の仕方までさまざまです。そうした企業の中で、これまでの主事、主査といった身分的な資格呼称を相変わらず使っている場合も数多く見られます。このため一見混乱しがちですが、たとえば「管理職能としての職能資格等級7級を主査と呼ぶ」といった程度の約束事と考えてよいものです。こうした資格呼称が用いられるのはきわめて気分的なもので、「資格はOO等級です」と言うよりは「資格は主査です」と言ったほうが、これまで社会的に通用してきた呼称だけに親しみやすく、また、世間の通りもよいからに過ぎないのです。
〔2〕トータル人事システム
人事制度は、人事労務管理におけるコンピュータのいわばOS(operating system)のようなもので、人事労務管理を構成するさまざまな個別職能を運用する上での基礎的なプラットホームのような役割を果たすものです。今日一般化している職能資格制度は、より合理的な職能等級基準を設定して従業員各人の職務遂行能力を測り、その内容と程度によって処遇するという意味で属人的処遇を行うものであり、勤続年数の積み上げが職務遂行能力の高まりと理解する属人的な年功原理に通じた「日本的能力主義」人事制度といえるものです。
そして、この日本企業における能力主義人事労務管理の制度設計・運用上の理念的な姿として提唱されているのが、職能資格制度を基軸とした「トータルま人事システム」(total personnel system) の考え方です。このトータル人事システムがなぜ能力主義人事の中核になるのか、それは次のような4つの制度・手続きの能力主義的運用が可能になるからです。
①人事評価制度の能力主義的運用
各々の職能資格等級に応じた職能等級基準(職能要件)が規定されているので、従業員各人に対する適切な人事評価項目の設定による能力評価ができる。
②雇用管理職能の能力主義的運用
従業員の職務遂行能力の格付け(=職能資格等級)を基礎にして、適切な昇格・昇進・配置・異動ができる。
③教育訓練・能力開発管理職能の能力主義的運用
従業員の保有する職務遂行能力と習得目標とすべき職務遂行能力とのギャップの把握ができ、それに応じた適切な教育訓練・能力開発の設定ができる。
④賃金管理職能の能力主義的運用
職能資格等級に応じた職能給体系の確立を可能とし、それに基づく適切な昇給と賞与配分の決定ができる。
このように、職能資格制度を基軸に据え、従業員の職務遂行能力を評価する
能力評価結果を通じて雇用管理・教育訓練管理・賃金管理といった人事労務管理の基幹的な職能を運用していく能力主義人事の基本的な態様を描くことができるのです。
まずは簡単に導入できる人事評価システムを取り入れてみましょう
「人事評価制度の必要性はわかっているが、0からシステムを構築するのは難しい」
「人事評価制度を作りたいが、何からやったらいいかわからない」
こんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ「HRvis」の導入をご検討ください!
「HRvis」は、人事のプロである社会保険労務士と、システムのプロが共同開発した、クラウド型タレントマネジメント人事評価システムです。当社の人事制度コンサルティング実績に基づき、よく使われる人事制度が初期設定されているため、すぐに使用できます。
また、評価シートに入力する項目や目標をテンプレート化できるため、毎回同じ項目を入力する必要はありません。人事制度のマスタで制度をアレンジすることも簡単にできます。
人材評価の方法についてお悩みの方は、ぜひHRvis の導入をご検討ください!
ロイヤル総合研究所
人事コンサルティングチーム